奥大和ライフジャーナルOkuyamato Life Journal

宇陀市 奥大和 2021.2.15 / コラム

奥大和に根ざすクラフトビール「奥大和ビール」と、併走するローカルデザイナーとしての役割。

文=勝山浩二(合同会社オフィスキャンプ)
写真=西岡潔・福井孝尚・勝山浩二

僕は10年間ほど、地域プロジェクトや企業ブランディングなどを手掛ける大阪のデザイン事務所勤務を経て、2018年に奥大和にフィールドを移しました。現在は木材産地で地域に眠る林業や木工産業、農業、地域に関わる起業家たちと共に、さまざまなプロジェクトを進めています。

奥大和へ移るまでは、交通アクセスが良い都心部に拠点を置き、様々な地域のクライアントと仕事をすることが多かったのですが、本当の意味での地域の課題や、相手の悩みごとまで踏み込むのに時間がかかると感じていました。

そして、「もっと地域に足を突っ込んだデザインをしたい」「顔の見える相手とデザインをしたい」と思い、奥大和にフィールドを移すことを決意しました。

そんなローカルに密着したデザイナーとしての活動を目指し、奈良に拠点を移した僕がはじめてブランディング・デザインに携わらせてもらったのが、「奥大和ビール」でした。

「奥大和ビール・TAPROOM」の店内 photo by Kiyoshi Nishioka

photo by Kiyoshi Nishioka

僕なりに一言で言い表すのであれば、ブリュワー(醸造家)である米田義則さんは「サムライ」。その生き様も、なんか見た目も。そして僕と米田さんの共通点は、三度の飯よりビールが好きということ。ちなみに、米田さんはアサヒ派で、僕はキリン派。

僕たちの出会いは4年前。現在は2人とも卒業したけれど、地域おこし協力隊の仕組みを使って地域での起業を促す「Next Commons Lab 奥大和」の同期メンバーとして対面したのが始まりでした。

米田さんは高校の時に上京し、東京で20年に渡り音楽業界で働いて、4年前に生まれ育った宇陀にUターンしてきたバリバリの地元民。経歴が変わってて、話がおもしろいアニキって感じで、よく飲みに行くようになりました。

しばらくして、米田さんは駆け出しのローカルデザイナーだった僕に、「一緒にやろう」と声かけてくれました。当時は「なぜ出会ったばかりの自分に…?」と不思議に思っていました。

「研究」と言い聞かせていろんなビアバーを飲み歩き、「調査」と言い聞かせて関西・四国にかけてブリュワリー巡りをしたり、バドガール(ボーイ)として売り子のアルバイトさせてもらったり、地元の果実農園さんに果物もらいに行ったり、いつしか寝食を共にするようになりました。これらがすべて、僕のローカルデザイナーとしての礎になっています。

徳島県上勝町のブリュワリー「RISE & WIN Brewing Co.」さんへの訪問

西吉野の「堀内果実園」さんへ果物をもらいに

2店舗目となる「奥大和ビール TAP STUDIO」の店舗改装は米田さんのDIY

米田さんが「サムライ」と呼ばれる(勝手に呼んでる)由縁のひとつは、その並外れた行動力。気になったこと・楽しそうなことを「とにかくやってみる精神」に溢れていて、僕の記憶する限り、醸造の相談をして「できない」と言われたことはありません。

もうひとつは、仁義を重んじる姿勢。野菜や果物などを取引する農家さんはもちろん、地域の飲食店やタップルームに飲みに訪れるお客さん、一緒に地域を盛り上げる仲間たち…彼らのことをすごく大切にしています。それはつまり、徹底的に地元密着ということ。

「奥大和ビール TAP STUDIO」のオープニングパーティー

例えば、柚子やブルーベリーといった宇陀市の特産品を使ったビールをつくったり、近隣の蕎麦屋さんと一緒に蕎麦の実を使ったビールをつくったり。例えば、奥大和のクラフトワーカーたちの技術を集めた企画を考えたり。

TAPROOMに8つあるタップを、8人の若手木工家たちが各々の技術を表現する試みが行われました。

今になって振り返ると、僕に「一緒にやろう」と言ってくれたのも、そういう仁義を重んじている彼だからこそなのだと気が付きました。そうやって奥大和の魅力と奥大和の人たちと共に築いてきたブランドが「奥大和ビール」です。今では、「奥大和ビール」は奈良を代表するクラフトビールのひとつとなりました。

photo by Kiyoshi Nishioka

ビールの話ばかりなので、デザインの話もします。(デザイナーなので!)

初めにブランドの骨格を米田さんと一緒につくりました。宇陀は古くから薬草がとれた土地として知られ、その歴史が深いこと、また彼自身が「ハーブ検定」という資格を有していることから、コンセプトを「HERBAL&BOTANICAL BEER」とし、他のクラフトビールでは見られないほど(びっくりするほど)たくさんのハーブを調合してつくるブランドにしました。

次にボトルのデザイン。「奥大和ビール」という名前は早い段階で決まっていました。この時期は、法律改正があり、全国でマイクロブルワリーが増えた時期だったため、何かしら印象的なものにしたいと思っていました。

また、ビールは男性顧客が多い市場であり、ボトルのデザインも男性に好まれそうなものが主流でした。そこで、男性が持っても女性が持っても、違和感のないデザインにしようと考えました。そして生まれたのが、店舗でもボトルでもコミュニケーションできるようにするための、ひとつのシンボルマークです(米田さんと僕は「奥ちゃん」と呼んでいます)。

photo by Kiyoshi Nishioka

奥大和ビールの頭文字である「奥」という漢字、それに米田さんの頭文字「米」の漢字をモチーフにキャラクター化。さらに、隠しポイントとして、サムライである米田さんに敬意を込めて、チョンマゲをつけました。このシンボルマークが、米田さんのキャラクターと共に広がっていくよう願っています。

その後、店舗運営や通販に必要なツールをつくっていき、もう最近では「玄関マットどんなんがいいかな?」「照明どうしよ?」といった相談まで乗っています。デザイナーとしてそこまでも相談してくれる関係は、すごくうれしいです。

僕はいつしか、初めて会った人に対して、二言目には「一緒にビールつくりませんか?」と話しかけるようになりました(デザイナーなのに)。先述の通り、いろいろな人とつながることで生まれるクラフトビールだからこそ、どんな物でも、どんな業態でも、何かしらつながりが生まれ、ローカルデザイナーにとって、この上ないきっかけがつくれるのです。

最近では、「デザイン費ビール払い」をはじめました。簡単な作業のデザインであれば、お金ではなくビールをいただく…いわゆる物々交換のことです。

僕はクリエイターという職業は、いろんな業種に関わることができる幸せな仕事だと思っています。

とりわけ、ローカルクリエイターならば尚更です。好きなコトや好きなモノと関わり、それを仕事にすることができるのです。自分の好きなコトやモノと少しずつ関わっていき、身の周りのコトやモノが少しずつ良くなっていくとうれしいです。

もっと言えば、自分の身の回りに、そういった物々交換でつながる経済圏ができれば、とっても幸せなことだなと思います。

photo by Takahisa Fukui

そして、2021年2月、米田さんは醸造所に併設されたブリュワリー&ゲストハウス「奥大和ビール TAP to BED」をオープンしました。

それは遡ること2年前、醸造所をつくるために物件を探していた時から彼が抱いていた、彼の夢でした。クルマ社会の地方でブリュワリーをつくるからには「飲んだら乗るな問題」が常につきまといます。徒歩移動ができる都心部とは違い、地方の飲食店でのビール文化は、そういう理由で根付きづらかったりします。米田さんは地方でのビール文化を育むためにも、「いつか宿をつくりたい」という思いを持ち続け、それがようやく叶ったのです。

これからも米田さんの周りではさまざまな人たちがつながり、たくさんの楽しいことが起こり続けます。クラフトビールもデザインも、人と人をつなぐ媒体なのだと、いつも彼に教えられています。

Writer|執筆者

勝山 浩二Katsuyama Koji

合同会社オフィスキャンプ所属。デザイナー/アートディレクター。1986年生まれ、大阪市出身。グラフィックを軸にした広告デザインやWEB、プロダクト、ブランディングなどを手がける。

関連する記事