奥大和ライフジャーナルOkuyamato Life Journal

東吉野村 2018.3.9 / コラム

ほっとする場所。東吉野村・鷲家の「レストランあしびき」

イラスト・文=青木海青子(Lucha Libro(ルチャ・リブロ))

2016年4月に兵庫県から住まいを東吉野村に移し、その年の6月、人文系私設図書館「Lucha Libro(ルチャ・リブロ)」を開設しました。

村というと大変山深く捉えられるかもしれませんが、「Lucha Libro」は、バス停や郵便局、レストランまで徒歩10分、もう5分歩けば小さな道の駅「ひよしの郷マルシェ」、最寄りの近鉄榛原駅までは車で20分程度という、アクセス抜群の地域・鷲家(わしか)にあります。

古くはお伊勢さんを目指す人が通過したり、滞在したり、紀州藩の飛び地であった場所。現在でも、宇陀方面から来村する人は必ず鷲家を通り抜けます。そのような歴史も手伝ってか、どこかオープンで人を迎え入れる気質があるような気がします。

そんな鷲家の集落に「レストランあしびき(以下、あしびき)」はあります。「Lucha Libro」からは、鷲家川沿いを歩いて10分弱。階段を上がりガラス戸を押し開くと、暖色の照明や、窓辺の鉢植え、ご近所の常連さんが座るカウンター席が目に入ります。その空気感は純喫茶や、よそゆきを着て出かけた百貨店の食堂を思わせます。

奥様が朗らかな声で「いらっしゃい」と迎えてくれるとほっとした気持ちになるのは、東吉野に引っ越してくる以前から変わらない感覚です(転居前から「あしびき」さんにはご飯を食べに行っていました)。

もともと東吉野村・鷲家のご出身だった店主の鳥山邦彦さんは、調理師学校、レストランでの修行を経て地元に戻り、1982年にお店を始められました。開店後に出会った奥様と二人三脚で切り盛りされてきていて、お二人の人柄そのままの、暖かな雰囲気のお店です。

ランチメニューなのに夜も注文できたり、予約すればフレンチのフルコースや懐石までも食べられる「あしびき」さん。メニューが豊富でどれもおいしいので、何を頼もうかいつも悩むのですが、一押しはドリアです。こんがり焼き上がったホワイトソースにスプーンを入れると、トロリとした半熟卵が。この卵を下のご飯になじませながら食べるのが、たまらなく幸せなのです。

鳥山さんご夫妻は、私たちにとって同じ垣内(区内の中のグループ。近所の数世帯で構成され、地域清掃等を共に行います)の先輩でもあります。行事や生活面で分からないことがある時、お店に伺って質問すると、親切に教えてくださいます。地域清掃の時や、お店に伺った時、色々なお話をします。街から村に来て寂しくないか、とか、ムカデも手強いがカメムシもなかなか、などなど。他愛もないことではありますが、声をかけてもらうだけでほっとします。

こういうお店がご近所に在るというのは、縁故なしに東吉野村に越してきた私たち夫婦には、心丈夫に感じます。特に大きいのは、困ったときに訪ねられるのが、地域の中の開かれた場所というところ。ご自宅に訪ねていってお聞きするには大げさに感じてしまうことでも、食事に伺った時にちらっとお話するのは気兼ねが少ないのです。

私たちはまだ村に住んで日も浅く、半分開き半分閉じているような状況ですが、「Lucha Libro」もいつか、誰かにとっての「あしびき」さんのようなほっとする場所になると良いと思っています。

お伊勢さんを目指す人たちを見守り受け入れてきた鷲家という土地で、あしびきさんに倣いながら、程よく開かれた心地よい場所を、時間をかけてつくっていきたいです。時間をかけて、というところも、村に来て学んだことで。

急激に距離を詰めるのではなく、川の流れの中で少しずつ丸みを帯びる石のように、ゆっくりじっくりなじんで、関係性をつくっていけたらと思います。生来ものごとを整えたり、関係性を築くのに時間がかかる方で、むしろそれがコンプレックスだったりもしましたが、村の優しい人たちや身近にある自然に日々、「それでいいんだよ」と言葉をかけてもらっている最中です。習慣でついつい焦らないように、今日も深呼吸を。

Writer|執筆者

青木 海青子Aoki Miako

人文系私設図書「Lucha Libro(ルチャ・リブロ)」司書。2016年より東吉野村で図書館を営むかたわら、刺繍等でコマゴマしたものを製作し、「コマモノいろいろ。青い木」の屋号で販売している。

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