奥大和ライフジャーナルOkuyamato Life Journal

下北山村 2018.3.30 / コラム

「いいですねぇ〜こっちは何したらいいんですか?」に感じた、下北山村が本気であたらしいことに取り組む姿勢

写真・イラスト・文=上村恭子ココトソコノ制作室

前回こちらで少し告知させていただいた、奈良市「ことのまあかり」での下北山村イベントは、新聞やケーブルテレビでも取り上げていただき、お客様もたくさん来られ、私自身もとても楽しい催しとなりました。

そもそもこの催しは、会場となった「ことのまあかり」を運営する友人の生駒あさみが、奈良がらみのイベントを積極的にしていきたいと考えていた時に、「やっちゃん(私のこと)、下北山村のイベントしない?」と声をかけてきたのが始まりでした。

その時点では、私にできることといえば、下北山村オリジナルグッズの制作と〜、写真展かイラスト展。あと物販預かるくらいかなぁ…などと考えつつ、まあ個人で思いつくのはこれくらいのものでして。飲食も出したいけど、一週間ものあいだ、お客様に提供する数の食材確保などはとても無理です。

なので本当にちょっとしたイベントのつもりで考えていて、それぐらいの気分のまま、「じゃあ村役場の人にも一応、ちょっと声かけてみるわ」と村役場にお勤めの和田さんに話したところ、返ってきたのはこんな返事。

「いいですねぇ〜こっちは何したらいいんですか?」

和田さんはこんな感じの男性です

その、もはや軽はずみとも言えるフットワークの軽い言葉。自分がこれからやってみようと思うことに、こうやって明るい返答がもらえるのはとても嬉しいことで、

「え、じゃあ、こんなんお願いできたりします…?」

と、そのままお言葉に甘えていろいろお伝えしていくうちに、春まな、アマゴ、ジビエ、お米やお茶に至るまで下北山村産で揃えていただき、さらには季節外れの「ごんぱち(虎杖)」まで見つけていただきました。

また、村の困りごとに応えるNPO「サポートきなり」さんから「下北山村原種の高黍(たかきび)があるんですよ!」という素敵な情報もいただいたりしつつ。

そうして懸念事項であった下北山村の食材、約一週間分の確保が叶い、「めはり寿司定食」と「おかいさん(茶粥)定食」、合わせて80食以上を楽しんでいただくことができました。

せっかくなので、「きっと来たくなる きなりの郷 下北山村」で提供したメニューをご紹介したいと思います。

こちらが「めはり寿司」定食。

「下北春まな」の「目はり寿司」に、下北山村で獲れた猪と下北山村で作られている「南朝味噌」を使った猪汁、「ごんぱち」に「たかきびだんご」もつけました。

これは告知の段階で「食べてみたい!」「めはり寿司好きなんです!」という声が多かった一品。下北山村の食文化はかなり和歌山・熊野の影響を受けていて、奈良の定番「柿の葉寿司」より断然、「めはり寿司」や「さんま寿司」のほうが日常的に食されています。

それを「下北山村でしか育たない」と言われている「下北春まな」の塩漬けで包んだ、さらに特別な「めはり寿司」。地元のお母さん方に来てもらって、みんなでつくるワークショップも開催しました。家ごとに中身が少しずつ違うという部分もお楽しみいただき、また、春まなの旬の時期ドンピシャだったので、湯通しした朝獲れ春まなでごはんを包んだ、本当に地元でしか食べられない「めはり寿司」までご紹介できました。

「ごんぱち」が何か知らない人も多いかもしれませんが、他地域では「イタドリ(虎杖)」「スカンポ」などととも呼ばれている、春先に出てくる山菜のこと。

下北山村に越して来た時、この「ごんぱち」のおいしさとめずらしさに感動した私。今回、まだ時期尚早だったのはわかっていながら、「それでもどうしても出したい!」という私のわがままを、役場の方は快く聞いてくださいました。

デザートの「たかきびだんごは」、村の地域おこし協力隊で「NPO法人サポートきなり」の一員として働く小野さんが、地元の方とともに大切に育てている下北山村原種のたかきびを使わせていただいたもの。たかきびだんご作りもみんなに体験してもらいました。

たかきびは最近のマクロビブームで再注目されている食材でもあります

もう一つの定食は、おかいさん(茶粥)が中心のメニュー。

下北山村はお茶の名産地とうたっているわけではないのですが、家で飲むだけのお茶を、それぞれご家庭で作っておられます。このお茶と茶粥の品のいいおいしさが、今回とても評判が良かったです。

奈良市内でも茶粥は食べられていますが、下北山村では「おかいさん(お粥)」といえばそのまま茶粥のこと。「白がゆは食べないなぁ…」と誰に聞いてもそう答えるのが印象的でした。

そんな「おかいさん定食」には、先述の「ごんぱち」「ジビエの佃煮」「春まな漬」と、そして美しい川で育った川魚の「アマゴの甘露煮」も添えました。

村や食材のことを記したオリジナルの箸袋もつくってお出ししました

正直、この村に来て一年ちょっとの人間の思いつき。特にこういうイベントに関して、私自身は役場の人を説得できるだけの明確な実績もあったわけではありませんでした。そんな私の提案に、ここまで村役場の人が乗ってくれるとは…

準備段階を含め、下北山村の人たちのフットワークの軽さに感動しきりのイベント期間でした。思えば、「めはり寿司」の試作や打ち合わせの際に、キッチンも併設している「BIYORI」という新しい「場」があったことも、とても大きかったと思います。

BIYORI」は昨年2018年10月にオープンした下北山村のコワーキングスペース

この「場」ができてから、またできつつある段階から、下北山村自体が「あたらしいこと」に取り組んでいこうという姿勢を打ち出しているのがひしひしと伝わってきていたわけです。こういう空気があって、「次はなにしようかな」という気持ちになれるのはとても嬉しいこと。

春が来て、下北山村はちょうど桜が満開。さて、次は何しようかな。

Writer|執筆者

上村 恭子Uemura Yasuko

イラストレーター。奈良市内の雑貨店「フルコト」のメンバーと、奈良の魅力や歴史を広く伝えたいという想いを込めて「企画編集会社ココトソコノ制作室」を設立。平成28年に下北山村に拠点を移す。

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