奥大和ライフジャーナルOkuyamato Life Journal

下北山村 2019.1.11 / コラム

やりたいことに挑戦できる空気をつくりたい。下北山村で生かされる、私たちの役割。

「人と自然に優しい暮らし」を目指して、カフェのセルフビルドにチャレンジ

下北山に移り住んで2年目の夏、一棟貸しの小さなお宿をはじめました。導かれるようにして出会った大家さんのご好意で、ロッジ風の素敵な一軒家をお借りすることができました。パーマカルチャーの手法を取り入れた自給用の畑をデザインしたり、大家さんから引き継いだホタルが舞うビオトープをご近所の方の協力をいただきながらお世話したり、少しずつ場をつくっているところです。

竹を使ったスタードーム。老若男女が集い、ワークショップ形式でつくりました。

そして今、この敷地内にセルフビルドでカフェ建設を計画しています。同じく地域おこし協力隊として「自伐型林業」に取り組んでいる夫が、毎日奮闘中。

※「自伐型林業」とは、大きな設備投資や機械化をせずに、個人でも始められる小規模の環境保全型林業のこと

村内の山から伐りだした木を、村内の林産加工所で製材してもらい、その材を使って自分たちでカフェをつくる。日常的に薪をエネルギーとして活用し、村の中で小さなエネルギー自給を実現する。目指す「人と自然に優しいステキな暮らし」の一つの形が、自伐型林業の実践にもなる。そんなビジョンを描き、私たちは新たな挑戦を始めました。

設計図を描き、コツコツと一本ずつ墨をつけ、材を刻み、基礎をうつ。今回挑むのは、プレカットや基礎工事を委託しない、在来工法で行う正真正銘のセルフビルドです。素人かつ手探りなので、時間も労力も多分にかかります。でも、山に植わっている木を材にして、カフェができるまでのすべての工程に一貫して関われるということに、大きな価値を感じています。そうしたプロセスを経て生み出されていく空間や空気感を想像すると、自然とワクワクしてくるのです。

…といっても、現段階の作業のほとんどは夫がせっせと取り組んでいるもの。ワクワク以上に、「本当に建てられるのかどうか…」というドキドキの方が強いのでは、とも感じています。すべて一から、独学で学びつつコツコツと進めていく様子を隣で見ながら、我が夫ながら凄いなぁ…と一人感心している私です。

  
村内産の木材に墨付け作業。地道にコツコツ、丁寧に。


先行する不安よりも、
沸き立つ希望を出発点に

何か新しいことを始める時、決まって多くの人から「やっていけるのか?」「大丈夫なのか?」と尋ねられます。結婚して仕事を辞め、夫婦二人で世界を旅すると決めた時も、下北山村に移り住むと決めた時も、宿を始めた時も、そして「カフェを建てる」と言い出した時も。

その質問をしたくなる気持ちはもちろん理解できるし、私たちだって数えられないくらい自問自答を繰り返しています。だけど、その問いに対する返答は「やってみないとわからない」という決まったもの。そして続くのは「だから、とにかくまずはやってみる」の一言しかないんです。

もちろん不安や心配はあります。経験も能力も十分じゃないことは、自分たちが一番分かっています。先立つ不安とも共存しつつ、でも、ほんの少し勇気を出して、自分たちが目指す未来のビジョンへの希望を出発点に、はじめの一歩を踏み出してみる。進んだり、戻ったりしながら、少しずつできることを増やしていく。そうすることで得られるものは無限にあると、今までの経験が教えてくれています。

「やりたいことをやる」というシンプルな「ことはじめ」。これも、地域おこし協力隊としてこの村にやって来た私たちにできる、一つの役割ではないかと思っています。


受け取ったものをエネルギーに変えて還元する。

こんな風に、私たちが「チャレンジしてみよう」と思える背景には、支えてくれる方々の大きな存在があります。「宿を始めます」「カフェを建てたいです」といきなり言い出す新参者の私たち夫婦に対し、「いいね!」と言って応援してくれる人がいるのです。

「使えるなら」と、お布団や食器、木材や機材を提供してくれたり、アイデアや人脈をくださる方がいます。こうしていろいろな形で村の方が応援してくださることほど、新しい地で新しいことを始める者にとって、心強く、有難いことはありません。

今の私たちの暮らしや活動は、「与えられて、支えられて、生かされる」という状況の上に成り立っています。たくさんのいただきものや、心遣いや、機会の提供に、恐縮したり、申し訳なかったりで、なかなか簡単に受け取れないこともあるのですが、差し出されたものを「ありがたく受け取る」ってとても大事なことだと最近は感じています。

その受け取ったものをエネルギーに変えて、自分たちにできることで還元していく。今の自分たちの役割を、そんな風に捉えるようになってきました。

古材や廃材も貴重な建材。大切に使わせていただきます。

セルフビルドと言っても、自分たちだけでできることなんて本当に限られていて、たくさんの手助けをいただかなければ成し遂げられません。いろんな人に関わってもらいながら、おもしろがって一緒につくってもらえたらと考えています。

そうやって、どこにでもいる素人夫婦が、やりたいことに挑戦して、失敗しながらもスキルを増やしていくプロセスを知ってもらいたい。苦しいことも、悔しいこともありながら、それでも楽しくハッピーに送っている村での毎日。そんなリアルな日常のシーンを発信していくことも、今の私たちにできることだと感じています。


自分の心に正直に、やりたいことをやろう

ここまで書いていて、「この記事を読んでくれている方に伝えたいことって何だろう」とふと気がつき、タイプをする手を止めました。

伝えたいこと、それは「田舎暮らし万歳!」でもないし、「環境に配慮した生活をしよう!」でもない。「移住ウェルカム!」でもなければ、「目指せセルフビルド!」でも全然ない…。伝えたいこと、それはやっぱり「自分の心に正直に、やりたいことをやろう」ということ。ただただ、それだけです。

やりたいことばかりして、ともすればワガママにも映るかもしれない生き方をしている私たちは、たまたま幸運なだけかもしれません。だからといって、どこかの誰かに遠慮して、やりたいことをやらないなんてもったいな過ぎると思うのです。

しがらみやプレッシャーが少ない中で、やりたいことにチャレンジできるという環境だからこそ、やらない理由を考えるより「Happy go Lucky」で動いていたい。そんな想いを現在進行形で体現しているつもりなのが、宿「山の家 晴々-haru∞baru-」であり、セルフビルドの薪カフェづくりであり、水面下で構想中の、鎌倉古民家活用計画(夫の出身地であり、移住前に暮らしていた)だったりします。

キッチンガーデンとなった竹スタードームの中。
冬は伝統野菜「下北春まな」をはじめ葉物野菜が育つ

宿を開業し、フィールドづくりに関するワークショップなどを催すようになり、この半年余りで延200人の方々が私たちを訪ねてきてくれました。足を運んでくれた多くの人が、「やりたいことをやるって、良いですね」と言ってくれます。完成された素敵な場所ではなくて、まだまだ手入れが必要なお庭や、始まったばかりのカフェづくりの様子を見て、そんな風に感じてくれるのはとても嬉しいことです。

そして、「僕はこんなことをやりたいんです」「私はこれから、こんなことに挑戦してみます」と、自分のことを話してくれると、とっても元気をもらえます。やりたいことは人それぞれ違うけれど、そのそれぞれを応援し合い、協働し、実現していく。村にいる、いないに関係なく、お互いに刺激し合って、高め合っていけるはず。

大小さまざまな挑戦が続く下北山村、そして、私たちの「やりたい」がたくさん詰まったこの小さなフィールドから、そんな空気をつくり出していけたら素敵だなと思っています。

夏はBBQ、冬は焚火が定番に @山の家 晴々-haru∞baru-

先の読めない、だけど何だか明るそうな、下北山村ときどき鎌倉…の「オノ暮らし」のこれからが、誰よりも楽しみなのはきっと私。

これを読んで、何か心に感じるものがあった方は、ぜひ、私たちの場づくり・空気づくりを覗きに下北山村に来てください。きっとあなたの「これやりたい!」がうずいてくると思いますよ。

Writer|執筆者

小野 晴美Ono Harumi

大阪府出身。大学卒業後、ソーシャルワーカーとして病院勤務。結婚し、世界を訪ねて巡るハネムーンの旅に出る。自然豊かな地を求めて、2017年春に下北山村に移住。山村地域でのナリワイ作りにも挑戦中。

関連する記事