奥大和ライフジャーナルOkuyamato Life Journal

高取町 2023.3.31 / インタビュー

住めば都の高取町で、楽しい方に流れていく。兵庫から移り住んだ子育てママの日々。

※本記事は高取町のWebメディア「和になる高取」(2023年に閉鎖)から転載しました

 

写真・文=赤司研介(imato) 

兵庫県出身の植村有紀さんは、小学一年生と幼稚園の年中になる娘さんのお母さん。2012年に夫の家方(いえまさ)さんと結婚し、仕事の都合もあって尼崎で暮らしていましたが、家族が増え手狭になってきたことや子どもをのびのび育てたいという思いから、2018年に家方さんの出身地である高取町へ移り住んできました。

親も友達もいない見知らぬ土地にやってくることに不安はなかったのか。高取町の住み心地はどうなのか。今回は、日々高取町で懸命に子どもたちに向き合う子育てママのリアルな声を聞いてみました。

—–移住されて5年、高取町の住み心地はいかがですか?

とってもいいですよ。人と人の距離が近くて、気取らなくてよくて、安心で。同じ子育て世代のママたちとも仲よくさせてもらっていますし、近所の方にも本当によくしてもらっています。

出身は加古川市なんですが、以前は子どもを親に預けられるのもいいなぁなんて思ったこともありました。でも、今はうちの両親がリタイヤしたら高取に来たらいいやんと思ってます(笑)。地域の人が子どもをみてくれたりもするし、親が近くにいないと子育てがしにくい、ってこともないかなって思いますね。

—–具体的には日々どんな交流がありますか?

近所の方が子どもたちを一緒に散歩に連れて行ってくれたり、家の目の前で畑をされている方が大根をひかしてくれたり、ちょっとのあいだ子どもを見てくれたりするんです。「私が洗濯物入れなきゃ」とか言ってると、「子どもたち見てたげるから入れておいでよ」って言ってくれたり。

家の前から公園までの道のりが坂道なんですが、子どもたち二人が自転車でビューンと走って行ってしまうことがあって。そんなときも、「あぶないでー!」「飛び出さないでねー!」とか「上手なったなー!」とか、声をかけてくれて。みなさんもうお孫さんが大きくなった世代の方々なので、ひ孫みたいな感じで接してくださって、そういう人が多い町なんだと思います。

—–いつも見てくれているというのは、捉え方によっては“いつも見られている”ということでもあると思うんですが、それが嫌だという気持ちはなかったですか?

そうですね、確かにいろんなことを聞かれるんですけど(笑)。でも、私はもともと喋り過ぎてしまう性分だし、取り繕ってもボロが出るし、言えばみなさん興味を持ってくれてるんで。

こっちに来たのは子どもがお腹にいるときだったので、公園で出会ったママたちに、「その年齢やったら誰々の子と同い年やで」とか、「あの病院で産むんやったら、ごはんがおいしないからこっそりふりかけ持っていきや」とか(笑)、いろんなアドバイスをもらったりして仲良くなって。

尼崎のときは、私ママ友がひとりもできなかったんですけど、こっちでは友達がいっぱいできて、良い意味で警戒しないというか、みんなオープンなんで、こっちもオープンな気持ちになれるというか、本当にいい人が多いです。

—–お母さん同士の交流が盛んなんですね。

でも、保育園のママの中には「交流がなくてさみしい」って言ってる人もいて。私たちが住んでいる下子島には「子ども会」があって、総会みたいな集まりにその人も来ていたんですが、「ママさんたちみんな仲良くていいなぁ」って言ってて。子どもが小学生に上がると、親同士の交流する機会はもっと減るから、都会だったら「付き合いしなくてよくなってうれしい」ってなるかもしれないけど、田舎は「子ども会」みたいな付き合いがあるほうが楽しいんじゃないかって、私は思ったかな。

—–そのほか、こちらに来てから印象的だったことってありますか?

尼崎も高取町も三年保育なんですが、当時の尼崎は入園の時期におむつがとれてなかったら入れなかったんです。今となっては、人数が多いから先生たちも一人ひとりに向き合ってトイレトレーニングなんてやってられないってことがわかるんですけど、当時は「えー!」ってなって。

そういうものだと思ってこっちに来たから、下の子が産まれてちょっとして「この子のトイレトレーニングしなきゃ……」ってママ友に話したら、「おむつなんかとれてなくても入園できるよ」「そんなにがんばらんでいいよ、いつかとれるとれる! なんなら幼稚園にとってもらおう」みたいなこと言ってくれて、 「いいやん!気楽!」と思って(笑)。

幼稚園も園児の人数が少ないから 先生の目がいき届くし、一人ひとりがどんな子かわかってくれる。人数が少な過ぎるというのも問題だけど、多過ぎず少過ぎずの規模感がちょうどいいなって思いますね。

—–買い物などはどうされていますか?

ちょっと車で行けばショッピングモールがあるので、何か必要なものがあればそこで調達できますし、近所で新鮮な野菜が手に入るから不便はないです。あ、強いて言えば、出前を届けてくれるところがないのが玉にキズですね。

それこそママ友と「ごはんめっちゃ手を抜きたいときどうしてる?」って話題になるんですけど、品目を減らして質素な方にいくか、コンビニで散財するかみたいな感じなんですが、ひとりが「近所のドラッグストア、あそこ橿原市やからピザの配達来てくれるで」って教えてくれて。「待ってる間に買い物もできるで」って話になって、みんなで「賢い!」って(笑)。そうやって主婦の知恵を共有したり、子どもの服とかもみんなで回し合ったりしています。

—–高取町ってどんなまちだと思いますか?

高取の人、みんな「なんもない」って言うんです。ほんとにみんな言う(笑)。でも、特化した何かがあるわけじゃないけど、「なんもない」って悪いことじゃないと思って。

都会ってなんでもあるから、なんでもあり過ぎて、何かに頼らないと選べないじゃないですか? 例えばインスタでこれが流行ってるとか、お店もあり過ぎて、どこのお店に入ったらおいしいものが食べられるのかわからない、でも外れたくないみたいな(笑)。服でも、みんなが持ってるからそれがいいとか。そういうのが精神的にも経済的にもしんどくなる。いい意味で選択肢が少ないから、選びやすいってあると思うんですよね。

—–最後に、移住を検討している人に向けて一言いただけますか?

まちの人たちにいろいろを聞かれるかもしれないんですが、「私のことを知りたいと思ってくれているんだな」って思って接してみてほしいなと思います。もちろんいろんな人がいますけど、挨拶してたらどうにかなります(笑)。

そのうち「どこの人?」って家を聞かれますけど、どうせ住むってなったら、もうそこの住人じゃないですか。取り繕ってもいずれバレますから、オープンな気持ちで物事を捉えられたらいいのかも。きっと住めば都になるはずですから(笑)。

「私、何事もあんまり深く考えないんです」と植村さんは笑います。ですが、それは移住を決めたり、移住した後の土地に馴染むために誰もができる、とてもシンプルで大切なあり様なのではないかと思いました。

起きてもいないことを深く考え過ぎて、一歩が踏み出せない。誰かに言われたことを勝手にマイナスに解釈して、ネガティブな気持ちになってしまう。私たちは過ぎ去った過去や起きてもいない未来に捉われて物事を悪く考えてしまうことがありますが、自分が置かれている状況や、やってくる出来事に対して、あまり深く考えずに受け入れて、楽しんでいく。それこそが、移住や人生そのものをポジティブに進める方法なのかもしれない。そんなことを、植村さんの振る舞いや言葉たちが、教えてくれているような気がしました。

Writer|執筆者

赤司 研介Akashi Kensuke

合同会社imato代表。編集者/ライター。1981年、熊本県生まれ。神奈川県藤沢市で育ち、2012年に奈良県に移住。宇陀市在住。2児2猫1犬の父。今とつながる編集・執筆に取り組んでいる。

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