わたしが暮らす川上村は、紀伊山地の険しい山々が連なる、谷あいの美しい村です。吉野川の水が生まれる“源流”があり、古くから「川上」と呼ばれていました。川の始まりにあるのは、豊かな森。雨の多い紀伊半島の気候を活かし、500年も前から杉や檜(ひのき)を植え育て、城の建築材や樽として使ってはまた植える持続可能な林業を営んできた、森と水と共に在る村です。
今から4年前の2013年。わたしは地域おこし協力隊という総務省の地域活性事業に応募して、生まれ育った東京からこの村に移住しました。帰省先も、田舎もないわたしにとって、古くから土地の特性を活かして続いてきた地域はとても魅力的でした。
最初は、「少し暮らしてみようかな」という軽い気持ちで転職・移住を決めました。そうして暮らし始めた川上村はとても居心地が良く、時間の経過とともに、この地の生業である林業に強く惹かれていったのです。
この村に来て2年が経ったころ、縁あってパートナーができたので、さらに暮らしを整えようと、引越し先を探しはじめました。森の恵みであるおいしい水が飲めて、日当たりが良く、山が見えて見晴らしのいい、木の家に暮らしたいと思っていました。
そんなわたしの願いを叶えてくれたのが、ここ高原集落です。
国道169号線から、ひたすら山道を登って行くと、突然視界が開け、なだらかな丘のような集落があらわれます。日照時間が長く、平らなところも多い土地で、水も豊富に湧き出ています。初めてこの集落を訪れた時から、なんと気持ちのいいところだろうと心を奪われてしまいました。古くから、この居心地の良さに人々が集まってきて、集落を形成して、暮らしを紡いできたのでしょう。
この歴史ある集落で、ご縁あって、築60年の木造住宅をお借りできました。
そして、暮らしをつくる“木”、山で生まれたばかりの“水”、澄み渡る空気、心揺さぶる景色…お金では買えない、とても贅沢な暮らしが待っていました。
家の中は、夏は風が抜けて涼しく、冬は陽の光が差し込みぽかぽかと暖かくなります。土地を知る大工さんは、風の流れを読み、理にかなった設計をされていました。
杉の床板。2年経った最近は、経年変化が楽しい
古い床は、やわらかな杉板を贅沢に使って補強しました。古タイルはそのままに、村の木工センターにお願いして、キッチンカウンタートップをつくってもらいました。材料の檜は、川上村で知り合った山仕事をされている方が伐採されたものです。
また、山から伐り出した原木を板や柱など木材に加工する製材所で、作業台として使われていた板を譲り受け、ダイニングテーブルにしました。
杉板のダイニングテーブル
こうしてわが家の暮らしは、土地の人たちが受け継いできた林業の恩恵を受け、たくさんの木に囲まれています。暮らし始めて2年。今も少しずつ手直しをしながら、理想の家づくりをしています。
最高の贅沢は、最高の素材にこそある。今のわたしにとって、森と水の恩恵をたっぷりと受けられるここ川上村高原での暮らしは、何よりも贅沢です。
ぐるりの話は次回に続きます。
Writer|執筆者
早稲田 緑Waseda Midori
2013年に東京から川上村へ移住。吉野林業の独特なシステムに心惹かれ、吉野林業そのものをプロモーションすることを活動の軸にしながら、新たな林業の“関わりしろ”を作る活動を行っている。