奥大和ライフジャーナルOkuyamato Life Journal

大淀町 2021.10.22 / コラム

何の取り柄もない若者が、縁もゆかりもない大淀町に移住した話

写真・文=外狩大樹(ゲストハウス大淀

「おはよう!」
「おはようございます!」

朝、近所の方とすれ違ったときの挨拶。

「最近どう?」
「ぼちぼちですね〜」

馴染みのお店で店主との何気ない会話。

「これいっぱいもらったから、よかったら食べて!」
「え、いいんですか? ありがとうございます!」

知り合いからのありがたいおすそ分け。

こんな、地域の方との何の変哲もない日常が僕にとってはすごく心地が良く、移住してきて本当によかったと思う瞬間です。たくさんの方と出会い、縁もゆかりもなかった町が生まれ育った地元よりも地元になりました。

2018年4月、僕は地域おこし協力隊として吉野郡大淀町に移り住みました。この町を選んだ理由はとても単純で、「田舎過ぎなかった」から。

人口は約1万6000人。町内に大型スーパー、ホームセンター、ドラッグストア、100円ショップ、ガソリンスタンドなどがあり、日常生活で必要なものはほとんど揃う、便利な田舎暮らしができる町です。

少しだけ僕の自己紹介を。

1994年、愛知県名古屋市生まれ。高校生まで名古屋で暮らし、大学4年間は滋賀県彦根市で過ごしました。振り返ってみれば、彦根での生活が田舎暮らしに興味を持つきっかけだったように思います。

勉強もそこそこに、部活、アルバイト、旅行に明け暮れる日々。そんな大学生活を送っていたので、特に資格を取ったり、スキルを身につけたりすることもなく、もともと人前で喋ることが苦手だったのもあり、就職活動はことごとく惨敗。内定を獲得できず、いわゆるお祈りメールばかりがたまっていきました。

それでもなんとか一社から内定をもらい、そこに就職しますが、数字も取れず、ダメダメ営業マンでした。就活でも連戦連敗、社会人になっても戦力外、今まで頑張ってこなかった自分が悪いんですが、ふと「僕は社会から必要とされていないのではないか」と思うようになりました。

そんなときに、ほとんど現実逃避で「田舎暮らししたいな」と考え始めたのです。そう思った理由はいくつかあります。

「都会に住む必要がない」
「田舎でのんびり暮らしたい」
「古民家に住んでみたい」
「古民家でゲストハウスをやりたい」
「空き家を安く貸してもらえそう」
「生活費が安いからあまり収入が多くなくても暮らしていけそう」
「若者が少ないからライバルも少なそう」

昔から逃げ癖があって、今回もそんな感じだったと思います。田舎暮らしをしようと思ったものの、貯金はほとんどなく、いきなり身ひとつで移住するようなリスキーなことはしたくなかったので、田舎暮らしや移住のことを調べまくりました。

そのうちに地域おこし協力隊のことを知り、「これだ!」と思いました。地域おこし協力隊制度を活用すれば、とりあえず3年間は仕事と住むところが確保できるので、その間に定住に向けた基盤づくり、起業の準備ができる。そう考え、当時協力隊を募集していた自治体の中から大淀町を選びました。

協力隊として移住を決める場合、「この町がいい!」という積極的な理由の方が多い印象ですが、僕の場合は、協力隊を募集していなければ正直、大淀町という町が存在していることすら知らないぐらいでした。

地域おこし協力隊としては、公式Twitterの投稿、公式YouTubeチャンネルにアップする動画の制作、その他取材、撮影など情報発信業務を担当。それらの業務を通して、本当にたくさんの方と出会うことができました。

そして今年、2021年3月に3年間の任期を全うし、協力隊を卒業しました。4月からは大淀町下渕で「ゲストハウス大淀」という名前の宿をしながら、町内の企業で働かせてもらうという、「会社員+個人事業主」のいいとこ取りをした複業スタイルで生活しています。

ゲストハウスは吉野川を一望できるロケーションにあり、お客さんから開放的な雰囲気でゆったりできると言ってもらえます。

縁あって農機具を扱う会社で働かせてもらってます。機械も農業も全くの素人ですが、いろんなことが学べて楽しいです。

大淀町に来てからは地域の方に本当によくしてもらい、感謝の気持ちでいっぱいです。こちらに来る前から、おぼろげに「ゲストハウスをしたいな」という思いを抱いていたのですが、移住して2週間後には、とあるご縁で、立派な古民家を貸していただく話が決まり、引っ越しの際は、知り合いの方に助けていただき、業者やレンタカーを利用することなく済ますことができました。

「家具・家電を集めてます!」とSNSに投稿したら、冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機、ダイニングテーブル、コタツ、扇風機、布団など、生活必需品がほぼ揃うぐらい、たくさんの物を譲っていただきました。

近所の方や地域おこし協力隊の仲間たちに、引っ越しを手伝ってもらいました。

田舎は若者が少ないので、若者というだけでも、都会と比べて注目してもらいやすいです。頑張っていればたくさんの人に応援してもらえます。簡単なことでも、とても感謝してもらえます。そんなことが積み重なって、移住してから「こんな僕でも必要とされてる!」と自己肯定感が上がりまくりました。

注目してもらえる、応援してもらえる。活躍の場があるってこんなに幸せなことなんだと実感しました。ここで暮らしていきたいと思うようになりました。お世話になっている方に恩返しがしたいと思うようになりました。

移住する前は何も意識していませんでしたが、源義経、後醍醐天皇、天誅組ゆかりの吉野を僕が選んだのも、何か引き寄せられるものがあったのかもしれない、などと思ったりもしています。吉野は古来から、再起を図る人がパワーをためる場所なのかもしれません。

吉野山にある吉水神社。源頼朝に追われた源義経が身を隠し、京を脱出した後醍醐天皇が南朝を開いた場所として有名。

過去の僕みたいな、都会で生き方に悩んでいる若者に「田舎で活躍できる」という選択肢があることを知ってもらいたいと思い、Twitterなどを中心に僕の生活や仕事のことなどを発信しています。

今はゲストハウスだけですが、ゆくゆくはシェアハウスも開きたいと思っています。家、仕事、コミュニティが揃えば移住のハードルはぐっと下がります。 地方には、人手不足で困っている事業者さんや農家さんなどがたくさんいます。 経験、スキルがなくても田舎では活躍できる可能性があります。

僕がこれまで、大淀町の皆さんからいただいたものを通じて、都会で悩む若者、人手不足で困る地域、その間をつなぐ役割が担えたらいいなと思っています。

Writer|執筆者

外狩 大樹Tokari Hiroki

1994年、愛知県名古屋市生まれ。大淀町の地域おこし協力隊・情報発信担当としてまちのPRに取り組む。任期満了後、大淀町下渕で古民家ゲストハウスをオープン。サラリーマンと個人事業主の複業生活を送る。

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