奥大和ライフジャーナルOkuyamato Life Journal

十津川村 2019.8.9 / コラム

土地の人と縁あって集まる人、みんなで踊る、十津川村武蔵の盆踊り。

写真・文=石川あき子(Calo Bookshop & Cafe オーナー)

大阪から遠く離れた奥大和エリアの中でも一番遠い、和歌山との県境に広がる十津川村。その中ほどに、私が盆踊りのために毎年通っている「武蔵(むさし)」という集落があります。

初めて参加させてもらったのは社会人になって間もない、1997年のこと。学生時代から通っていた友人に誘われ、当時は車で6時間ほどかけて向かいました。

どこまでも折り重なる山の深さと、そんな場所で室町時代の「風流踊(ふりゅうおどり)」に端を発する優雅な踊りが連綿と続けられている驚き。盆踊りのために村外からやって来る一癖ある人たちとの共同生活。

おばあさんたちに教えてもらった踊りは難しすぎて全然踊れなかったけど、山の中の清々しい環境とあいまって、強烈な気持ちよさを感じたのでした。そのときは、20年以上も通い続けることになるとは思ってもみなかったのですが…。

今では、新たに道路が開通して、大阪からでも3時間半ほどで行くことができるようになりましたが、やっぱり遠い。でも、外から行く者にとってはそれが魅力で、その距離が“下界”とのスイッチを切り替えてくれます。

武蔵は十津川村役場そばの「湯泉地温泉」の旅館街から山道を車で15分ほど登ったところにあり、人の手で開かれた山上集落の、包み込むようなスケール感が心地よい場所です。

武蔵へ上がってしまうと自動販売機すらありません。家や畑の間を通る石畳の小道を散歩したり、冷たい沢で涼んだり、夜には旧小学校の校庭で満天の星空に包まれたり。国道から離れているので人工の音がほとんど聞こえず、本当に静か。五感をおもいっきり解放できます。

武蔵の盆踊りには、毎年村の外から親戚縁者ではないメンバー30人前後が集まります。

この流れは、もともとは35年以上前、大阪大学を中心に行われた盆踊りの調査がはじまり。現在は、当時を知る唯一のメンバーで「大阪市立大学 都市研究プラザ」で特任教授を務める中川眞さん、その教え子たち、口コミでやって来た社会人、十津川の他の集落で活動している大学生など、年齢も職業も多様な集まりになっています。

8月14日に開催される盆踊りの前後、集落の公民館でゆるい合宿生活をしながら、櫓(やぐら)の準備を手伝い、一緒に踊ります。これは、十津川村の中でも高齢化が進んでいる武蔵の盆踊りに欠かせない光景です。

武蔵は「一見、何もない場所」なので、繰り返しやって来るのは、自分で仕事や遊びをつくれるタイプの人々。

一方、武蔵で盆踊りを仕切る村の男性陣も愉快な人たちで、場所柄、大抵のことはDIYがあたりまえの、合宿参加者たち憧れの先輩的存在。そんな人たちとお祭りの準備から片づけまでを一緒にするのは、何かと得られることも多いのです。

十津川盆踊りの最大の魅力は、その異常に複雑かつ独特な踊りで、なかでも「大踊(おおおどり)」は国の重要無形文化財にも指定されています。

十津川は吉野から熊野を結ぶルート上にあり、古くから都との行き来があったところ。実際にこの場を訪れて、舞扇を両手に持って踊る優雅な踊りを目の当たりにすると、都から伝わってきた踊りが、その山深さゆえ、これまで続けられてきたのだろうなあと納得できると思います。

今は、小学校の校庭など屋外で開催されることが多いのですが、以前はお寺のお堂など、室内で踊っていたそう。

武蔵では、雨天の場合は今でもお堂で踊るのですが、これが圧巻。大勢が床を踏み鳴らす音はまさに“ビート”。非常に盛り上がります。昔の念仏踊りは、きっとこのようなものだったのだろうなと想像が膨らみます。

音頭は太鼓と歌だけのシンプルなもの。

古くからの形を残していると思われる「口説き」や「大踊り」以外にも、昭和の初めあたりの流行歌や民謡にアレンジを加えたものもたくさんあり、素朴な歌詞(ピュアな恋心あり、シモネタあり)がかわいらしくてキュンとしてしまいます。

戦前までは、その時々の流行歌で新しい踊りをつくっていたのだと思いますが、第二次世界大戦で盆踊り自体が中断し、戦後に復活してからは保存・伝承へ向かいました。過疎化によって踊らなくなった集落がある一方、一旦は途絶えたものの、外から入ってきた人により踊りが再開されたところもあり、伝承の方法も変化しています。

現在、十津川の盆踊りは、重要無形文化財に指定されている武蔵・小原・西川を含め、村内10ヶ所で、8月13日〜15日の3日間に分散してそれぞれ開催されています。

踊りも音頭も集落ごとに異なり、他地区の踊りにおじゃまして一緒に踊らせてもらうのも例年の楽しみです。

ストイックに踊りまくる山の盆踊りなので、観光客向けの愛想はありませんが、土地の人と縁がある人、みんなでつくってみんなで楽しむ、年に一度の盆踊りです。お盆に奥大和エリアに来られる方、ぜひ足を伸ばしてみてください。

この時期に合わせて、武蔵ではオープンカフェ「ヤマノカロ」もやっています。武蔵について、盆踊りについて、もっと知りたい方はぜひお訪ねください。

「ヤマノカロ」のウェブサイトでは、武蔵へのアクセスなども詳しくご案内しています。

Writer|執筆者

石川 あき子Ishikawa Akiko

大阪市江戸堀にあるブックカフェ「Calo Bookshop&Cafe」オーナー。盆踊りの時期に合わせ、十津川村・武蔵でオープンカフェ「ヤマノカロ」も開店している(新型コロナウイルスの影響により現在は休止中)。

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