奥大和ライフジャーナルOkuyamato Life Journal

吉野町 2023.12.18 / コラム

吉野の女性たちを通して考える、この町の未来について。

文=長谷政和(清谷寺副住職/B&B SEIKOKUJI宿主)

はじめまして、こんにちは。私の名前は長谷政和。

奈良県の真ん中あたりに位置する吉野町の山寺で生を授かり、大学を卒業し7年ほど東京に出て出版社で勤めた後、Uターンで吉野に戻り町の観光協会で働きながら時々副住職としてお寺の業務に従事しつつ、実家の離れを利用したゲストハウスを営んでいる。

吉野に戻ってきて2年ほど経った2017年の夏から秋にかけて、河瀨直美監督の映画『Vision』の撮影のため、フランスの女優ジュリエット・ビノシュさんがうちのゲストハウスに宿泊されるという僥倖に恵まれた。

幸運にも夕食を一緒にいただく機会があり、なんの話題だったかはっきり覚えていないが、私は男性ばかりが仕切る社会の生きづらさについて話していたはずである。そこで彼女は「あなたのような考えをする男性は日本では珍しいわね」と言ってくれた。私の英語能力は英検4級レベルなので完全には聞き取れていないと思うが、彼女が肯定的に応えてくれたことがとても嬉しかったのをよく覚えている。そこから私がフェミニストの思想にたどり着くまでには、それほどの時間を要しなかった。

世の中がより良くなっていくために必須の条件、それは男女平等な社会を実現していくことである。

吉野町の2023年10月末時点の人口を見てみよう。6,066人のうち、男性2,797人、女性3,269人で、女性の方が472人も多い。次に吉野町議会を見てみよう。議員数8名のうち女性は0(2023年10月現在。定数9名のところ1名が欠員)。全員が男性である。歴代の吉野町長が女性だったことはもちろんない。これは吉野町だけではなく、日本全体が抱える問題だ。各国における男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数は146カ国中125位(2023年)で、同じアジアの韓国や中国よりも低い。

たしかに、日本の国会議員や大企業の社長のほとんどは男性が占めており、その光景が常態と化している。多くの組織や企業では、要職へ積極的に女性を登用してこなかったため、女性の上司や先輩のいない職場の部下である女性は昇進の機会も少ないし、自分に能力があることに気づきづらい。しかも、男性ばかりの職場で女性が男性と同じように働くということは、男性以上に適応力を試される状況が待ち構えている(女性の国会議員を見ていると本当にかわいそうだ)。

しかし、吉野町内の活動に目を向けてみると、目立った事業を展開している女性がとても多いことに気がつく。ここ数年で開業したお店だと、「ナラヤマソウ」の東さん、「レ・バーグ」寺島さん、「カフェ・ル・ルポ」里田さんが店主をされている。

カフェ・ル・ルポの里田良子さん(筆者撮影)

他にも新進気鋭のギャラリー「うちゅうねこ」、創作和食店「一路」、沖縄料理「ツバメ堂」なども女性がメインでお店を切り盛りしている。郷土の人形劇やおはなし会をされている団体「おはなしらんどカンブリア」や、移動式こども食堂「よしのっ子食堂」の運営に関しても、女性たちが大活躍だ。

このメディアに寄稿しているのも、「アトリエ空」の澤木さん、「jiwajiwa」の松本さん、「KAMINN」の片山さん(群馬に場所を変えて活躍中!)、「さんちゅう」の竹内さんと、全員女性である(「くにす食堂」の糟谷くんが取り上げられているが、書いているのは男性編集者の赤司さん)。

ゲストハウス空の澤木久美子さん(筆者撮影)

なんか男性陣、影が薄くないか? 

いま、吉野で女性たちが、自分たちの力で生活していくため、力強い一歩を踏み出している。新たな事業を始めるにあたり、吉野という場所が選ばれていることはとても喜ばしい。

一応言っておくが、女性だからといって特別扱いしたいわけではない。そもそもこれまでが「女性」という理由で、役割が固定化されたり、できなかったり、ないがしろにされたりといった「特別扱い」が行われてきた。そして男性だけではなく、女性自身もそれが当たり前だと思い込んできた。

でも、これだけネットが普及し、SNSでリアルタイムに世界と繋がっていられる社会に住んでいると、自分たちが住んでいる社会と容易に比較ができてしまうので、これまでの当たり前が徐々に違和感を帯びてくる。

女性にはもともと移住者が多い。近年は吉野でも地域おこし協力隊の制度を用いて移住する人が増えたが、昔は結婚した相手の実家に嫁いだり、夫の実家の周辺に住む選択をするために吉野へ引っ越してきたりした。だからこそ、ずっと生まれ故郷で生活している人とは別の目線をもっている。その視座こそが、地方の停滞した空気を変革させる力ではないかと私は思っている。

とにかく、男女という性差で役割を分けることはもうやめていこう。リーダーシップをとるのが苦手な男性もいれば、家事が苦手な女性もいる。機械に強い女性もいれば、繊細な手作業が得意な男性もいる。

もちろん、体力の差や向き不向きはあるので、個人の意向は尊重されるべきだし、お互いに足りない部分は補っていくべきだ。個人が最大限に力を発揮できる場所を整えることができれば、国力ならぬ地域力はぐんと上がるに違いない。

だからこそ、社会を仕切っている男性たちにはやるべきことがたくさんある。

とにかく男性は、これまで当たり前に過ごしてきた社会の仕組み自体を見直すことが必要だ。見直して、改善する。これらはその仕組みを作ってきた男性の責任と役割である。よって男性は影が薄くなり存在意義がなくなってしまうどころか、今後の町の命運は男性の力にかかっているといっても過言ではない。

ジェンダー意識が高まりつつある昨今、男性は下駄を履かせてもらってきたといわれている。

たしかに男性で年長という高い位置からの眺めは良好なので、その下駄を脱げと言われても正直しんどいだろうし、そもそもその眺めの良さにすら気づいていない人は多い。

でも、下駄を履いて歩くのは現代社会だと違和感があるし、そもそも室内だったら履物は脱がないといけない。それは日本家屋に入る際のマナーだし、素足で歩くほうが気持ちいいに決まってる。

自分自身を大きく見せる必要なんてない。男女関係なく、みんなそれぞれに持っている素敵な力があるんだから、その能力を最大限発揮できる環境を吉野町内に整えていきましょう。そのために、まずは我々男性が下駄を脱ぎ、同じ目線に立って、女性たちの話を聞こうではありませんか!

Writer|執筆者

長谷 政和Hase Masakazu

吉野町出身。浄土宗総本山知恩院にて得度。東京の音楽系出版社で7年働いた後、2015年にUターン。吉野ビジターズビューローに勤務しつつ、ゲストハウス型宿坊「B&B SEIKOKUJI」を運営している。

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